ネオニコチノイド系農薬は、野菜、イネ、果物、菊などの花の栽培に広く用いられています。農薬の代表として当たり前のように使われているネオニコチノイド系農薬ですが、近年になって様々な弊害があることが分かってきました。
その一つが「生態系の破壊」です。農薬というと不要な害虫を殺すもの、病気を防ぐものと思われていますが、それは人間の利益のためでしかありません。そもそも、自然界において不要な存在などいません。人間が利便性と効率化を求めて農薬を使うことが、生態系を脅かすとしたら、結果的に人間の住処さえも脅かすことになります。とはいえ、一般的に農薬が生態系を壊すのかどうかは、まだ未知の部分でもあります。
そこで今回は、ネオニコチノイド系農薬が生態系に及ぼす影響と、実際の事例、人間への影響も含めてお話しします。ぜひこの記事をきっかけに農薬や野菜の選び方について考えてみましょう。
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ネオニコチノイド系農薬と生物多様性の変化
私たちは、想像以上に精密に構成された「生態系」の中で生かされていることを忘れがちではないでしょうか。日頃の生活で生態系のことを意識するのは、野菜や肉などの恵みをいただくときかもしれません。でも、実はその背景には小さな昆虫や土壌中の生物、さらに小さくなれば、細菌やカビなどの微生物が関わっています。
さらに、太陽エネルギーや河川や海などの水、空気などが密接にバランスを保ちながら生態系を維持しているのです。中でも農作物は、食物連鎖がその生育環境の軸になります。しかし、その食物連鎖のバランスが近年崩れはじめているのです。
農薬によるミツバチやトンボの減少
都会で暮らしているとあまり気がつかないかもしれませんが、農村地域では生態系の変化に気づくことがあります。たとえば、水田には多数の生き物の食物連鎖が存在し、複雑に結びついています。しかし、近年では農薬を使用する水田で、ゲンゴロウやタガメなどの昆虫が姿を消しつつあるのです。
また、農薬は害虫だけを殺すのではなく、ミツバチやトンボなどの生き物、さらには鳥類の命まで脅かします。特に、ミツバチの減少は農作物の成長にも影響。ミツバチには花粉を運ぶポリネーターとしての役目があるからです。実際に、人間が散布した農薬により、「ミツバチの大量死」など、想定外の事態が発生しています。
ネオニコチノイド農薬が加速させる生態系破壊
今まで農村では多くの農薬が使われてきましたが、生態系破壊を加速させたのは「ネオニコチノイド系農薬」です。ネオニコチノイドは、有機リン系に変わる次世代の農薬として優れた効果と安全性が期待され、開発されたものです。しかし、実はその残存性の高さ、水溶性と脂溶性をあわせ持つ特性が、生態系への危害を加速させることになってしまいました。
ネオニコチノイド系農薬とは?
ネオニコチノイド系農薬とは、名前のとおり「ニコチン」に似た化学骨格をもつ農薬の種類です。1990年頃に有機リン系農薬の後継として開発され、近年その国内出荷量は右肩上がりに伸びています。
ネオニコチノイドの特長は、無味無臭無色で、浸透性、残効性、神経毒性があること。昔は農薬を撒くと色が白くなったのですが、ネオニコチノイドは無色なので全く分かりません。気づかずうちに接触したり、摂取したりしている可能性があるのです。
また、アセチルコリンという神経伝達物質の受容体にくっつき、神経伝達を狂わせるという殺虫効果があります。この作用は害虫にかかわらず、ミツバチやトンボなどの昆虫にも効くため、幅広く生態系に影響。さらに、人間などの哺乳類にも同じ神経系の仕組みがあるため、その神経毒性が問題視されています。
水田でも使われるネオニコチノイドと生態系破壊
日本人の主食でもある「コメ」の栽培、つまり米作りにもネオニコチノイド系農薬が使われています。米作りの始まりは、春の田植え前の「苗作り」です。日本の米作りは、機械移植に対応する「育苗箱」というものが広く使われており、その際の殺虫剤としてネオニコチノイド系のイミダクロプリドやプロフィニルがよく使われています。
とても効き目があって夏の間も害虫に耐えることができ、田んぼの水は澄んだままです。それと同時に、田んぼの生き物だけでなく周囲の雑草もキレイになくなります。
一見、人間にとって不利益がなさそうですが、生き物が消えた田んぼは生態系が破壊されている、つまり生命力が失われます。また、その田んぼの排水が河川に流されれば、河川から海まで農薬によって汚染。一部のメリットだけを追い求めると、全体の均衡が崩れて思わぬ事態を招くのです。
大規模な農薬散布の怖さ
稲が実る秋頃になると、カメムシが稲の穂につきます。カメムシは独特な臭いだけでなく、農作物にも影響するために嫌われものとされているのです。
このカメムシを防除するため、ネオニコチノイド系農薬が使われています。無人ヘリコプターやナイアガラ散布といった方法で、田んぼに散布。その同時期にミツバチの大量死が日本各地で報告されたことから、近年ではカメムシ防除の農薬散布が問題視されています。
この防除は、カメムシ被害による斑点米を減らすことが目的でした。斑点米はコメのランクを下げてしまうからです。しかも、この防除の目的である「斑点米」の問題は、近年では色彩選別機という機械で解決できることが分かってきたため、このような意味のないことで、必要とされる大量の昆虫たちが死ぬ事態を招いてしまったのです。
特に恐ろしいのが、無人ヘリによる大規模な農薬散布です。人件費を減らして効率よく散布ができることから、無人ヘリが急速に普及。しかしこれらの散布濃度は、地上散布よりも100倍以上も濃くなり、実際に人間への被害も引き起こされています。
国の方では2020年度までに、コメの農産物検査を抜本的に見直す方向で検討されています。見た目を重視する現行の制度ではなく、農薬散布の安全性という本質を見た制度に変わってほしいものです。
農薬散布による生態系破壊を止めるには?
農薬を使わない無農薬栽培の田んぼでは、ミジンコやヤゴ、おたまじゃくしなど、昔であればその辺の川や沼で見られた小さな生き物が生きています。また、周辺にはトンボやセミ、共存できる雑草なども存在。農薬を使わないことで、生態系という大切な存在を壊さずに済むのです。
このように生態系を残したままでも農業は可能です。ただ、非常に手間もかかり、害虫被害が怖いと思われているため、なかなか普及していません。
では、どうして農薬を使わなければならなくなっているのでしょうか。それは、日本人が効率や利便性、見た目の良さなどを優先してしまったからです。もちろん、最低限の農薬が必要な場合もあるかもしれませんが、工夫すれば削減できます。
また、買い手側の責任もあります。買い手側が安全な野菜や米を率先して選ぶようになることで、流通を変えて結果的に農業も変えていけるのではないでしょうか。無農薬野菜や有機野菜は少し値段が割高だと思われがちですが、需要が増えればもっと手に入りやすくなるではずです。今日から少しずつ意識を変え、無農薬や有機栽培のものを取り入れていきませんか?