「日本は農薬大国」と聞くと耳を疑う方も多いのではないでしょうか?じつは、想像している以上に日本の野菜や果物には、非常に多くの農薬が使われているのです。
自分自身や家族の健康のため、次世代と環境のためにも、国産だからと盲信するのではなく、日本の農業において農薬が多く使われているという真実を知っておくことが大切です。普段口にしている野菜や果物は、果たして本当に「安心安全な国産」なのでしょうか?
そこで、今回は日本の農薬使用の現状と、健康被害のリスク、生活から農薬を減らすための方法についてご紹介します。
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日本における農薬使用の現状
日本人は「国産ブランド」を信じる傾向があり、野菜も果物も、とにかく国産なら安心と思っている方が多いのが現状。ここ数年で放射能汚染などについての関心は高まりましたが、依然として農薬については一部の人だけが気にしているような状況です。
日本の農薬使用量は中国に次いで多く、他の欧米諸国など先進国の中でも群を抜いて多いことはあまり知られていません。この事実を聞くと誰もが信じられないと思うはずです。FAO(国連食糧農業機関)の統計によれば、日本の農薬使用量は中国とさほど大差ない状況。アメリカについては日本の5分の1、イギリスで4分の1、さらにインドでは30分の1程度まで少ないというから驚きです。
さらに、OECD(経済協力開発機構)が2008年に発表したデータでは、耕作地面積あたりの農薬使用量は韓国に次いで2位という状況です。このレポートでは、日本の農薬使用量が多い理由として「土地や労働者への圧力や温暖湿潤気候によるもの」と述べられています。日本の夏は高温多湿の環境であるため、その中で作物を虫に喰われずに育てるのは非常に難題なことなのです。無農薬で育てようとすると膨大な労力がかかってしまいます。安定供給のために、農薬散布を行わなければならない状況となっているのです。
消費者の行動が農薬大国に育てた原因?
いつも食べている野菜や果物をどのような基準で選んでいますか?多くの日本人は「この野菜には〇〇という成分が入っている」「△△は血圧にいいらしい」「緑黄色野菜だから」など栄養価や味、またはコストで選んでいるのが現状でしょう。
スーパーに行けば一部のコーナーで有機野菜や無農薬野菜などが売られているものの、まだほんの一部で、農薬を使って育てた農作物が市場のほとんどを占めています。無農薬野菜や露地栽培の野菜は、手間もコストもかかるため少量生産しかできないからです。ニーズが低いこともあって流通数が少ないことが理由です。単刀直入に言えば「売れないから大量に作られない」ということが背景にあります。消費者の選択が変わらない限り、農薬大国から脱することは難しいと言っても良いでしょう。
日本人の完璧志向が招く農薬の大量使用
海外と比べて日本の農薬使用量が多いのは何故でしょうか?海外でも野菜は豊富に出回っているのに、日本では一体何が違うのでしょうか?
まず一つに、日本人が求める野菜や果物の形状、品質の高さが理由として挙げられます。きゅうり1本を例に挙げるとわかりやすいでしょう。自然に育ったきゅうりは、グニャっと曲がったものや小さいものなど、それぞれ全く違った個性豊かな形になります。でも、スーパーに並んでいるきゅうりはスラッとまっすぐで、大きさもほぼ均一です。まるで工業製品かのように、美しい形の野菜や果物が並んでいます。
なぜ、そこまで形が揃ってないといけないのかというと、日本の消費者は形の良さを重視しているため、形が悪いものは売れないからです。
商品としての野菜それぞれに規格が定められ、基準に達しない野菜は「規格外」となって出荷できなくなります。農家はロスを減らして売り上げをアップさせたいため、農薬などの薬剤を使って一定の品質を保つように努めています。同様に、虫に喰われて穴が空いた野菜も売れないので、どうしても農薬に頼らざるを得ない状況になっています。
農薬使用の基準は諸外国と比べても緩い
日本は治安がよく世界的にみても安全な国として知られています。それは厳しい法律や規制が整備されているからこそでしょう。しかし、農薬の基準については諸外国と比べると規制が緩いということをご存知でしょうか?
例えば、ヨーロッパとの比較ではジノテフランで2500倍、ニテンビラムで1000倍と高い基準に定められています。ヨーロッパの旅行者に対し、日本の野菜は農薬が多いのでなるべく食べないように、という注意喚起がなされたという話もあります。
もちろん農薬を完全に悪者扱いすることはできません。農薬が発達したことで労働力が効率化され、収穫量の増加などのメリットを享受してきたことも事実です。ただ、各国の基準設定には年間消費量や体質なども加味されていることを前提に考えても、日本における農薬の使用基準が緩いことは注視すべき問題だと言えるでしょう。
便利になるほど増える農薬の使用量
日本のスーパーに行くと、どんな季節の野菜でも手に入ります。夏野菜であるトマト、きゅうり、ナスなどは、夏に限らず一年中を通して安定供給されています。これほど便利になった背景には、促成栽培の発達があります。促成栽培とは温度や日照量を人工的に管理して、自然環境では育たない作物を育てる方法です。
害虫から守られている環境に見えるビニールハウス栽培。例えば、きゅうりでは50回、ピーマンは62回、ナスでは74回と驚くべき回数の農薬が使われています。ピカピカで健康的に見える野菜であっても、大量の農薬が使われている可能性があることを知っておきましょう。
化学肥料と土壌消毒の悪循環
表面的に散布している農薬だけならば、洗えば落ちると思われるかもしれません。土の中で育つ根菜野菜であれば安心できるかというとそうではないのです。
大根は真っ白なものが良質だと思っていませんか?化学肥料で育った大根はほとんどの場合、「線虫」に食べられてしまいます。皮に傷がつくと売り物になりません。そのため、線虫を殺すために土壌消毒が一般的に行われています。
問題なのは、人間にとって悪い物だけでなく、良い物、例えば、微生物や必要な虫まで殺してしまうので、土壌の質が低下することです。強い消毒剤であるため、打った直後は子供が近くことを禁じられているといいます。消費者の私たちだけでなく、作り手にとっても健康被害が及ぶ方法を選ばざるを得ない現状が、果たして本当に得策と言えるでしょうか?
また、ネオニコチノイド系の農薬のように植物内部を浸透してしまう場合もあり、洗えば大丈夫とは限りません。
私たちの意識と選択を変えることが第一歩
なぜ、日本では農薬を使った農業がこれほど発達してしまったのでしょうか。それには日本の気候だけでなく、消費者が見栄えや利便性の良さを優先したことも関係しています。
本当の安全・安心とは、見栄えが良い野菜を食べられること、いつでも同じ野菜が食べられることなのでしょうか?見た目の良さだけではなく、もっと本質を見ることが大切と言えるでしょう。
正しい視線を持ち、真に安全な野菜を選ぶことが、日本を変える一歩になります。消費者の視点が変わって需要が増えれば、農薬に頼らない生産者も増えていくことでしょう。「自分の選択が未来を変える」という強い気持ちをもって、日々の行動と選択を変えていくことが今の私たちにできることです。一人の力は微力に感じても、その輪が広がれば大きな力となります。ぜひ、今日から買い物するときには視点と選択を変えていきましょう。