無農薬栽培で育てられた野菜を手に入れたいと思っても、なかなか手に入りづらいと思いませんか?
普通のスーパーではまず扱われておらず、あっても片隅に少し置いてある程度でしょう。
気軽に買えない価格設定で日常的に食べることは難しいという方も多いのでは?
欧州を中心に無農薬や有機栽培の野菜が広がりを見せています。
しかし、日本ではなかなか普及していないのが実情です。
一体、なぜ日本では無農薬栽培や有機栽培の発展に遅れをとっているのでしょう。
その原因としては、日本の気候の問題だけでなく、国の事情や消費者の厳しすぎるニーズも関わっています。
今回は日本で無農薬栽培が広がらない原因と問題点についてご紹介します。
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無農薬栽培とは?
よく耳にする「無農薬野菜」、「無農薬栽培」という言葉に、国で定められた明確な定義はありません。
一般的には「農薬を使わずに育てられたもの」と理解されています。
農産物に全く農薬を含まないことや用いないことを定める厳格な基準や認定する機関がまだ無いため、消費者への誤解を防ぐためにも「無農薬」とパッケージ等に表示することは厳密には認められていない状況です。
なお、有機栽培については日本の有機認証JASで厳しく管理されていて、農薬の種類なども定められています。
有機栽培の場合は、定められた一部の農薬だけ使うことが認められています。
「オーガニック=有機」という意味であり、オーガニック野菜も有機野菜のことを意味します。
日本と世界の農業の現状
日本の農業においては、農薬も肥料も用いる慣行栽培が長く行われています。
日本でも昨今はオーガニック、有機という言葉を聞くようになりましたが、日本の耕地面積における有機栽培の取組面積は約0.5%と低い割合にとどまっています。
予想よりも少ないと思った方がほとんどではないでしょうか?
海外ではイタリア8.6%、ドイツ6.1%、イギリス4.0%など欧州では日本よりも数十倍も高い割合で普及が広まっていることが分かります。
アメリカ0.6%、韓国1%程度と低い割合の国よりも日本の割合はさらに低い状態となっています。
なぜ無農薬栽培や有機栽培が普及しない?
日本ではどうして無農薬野菜や有機栽培が、欧州諸国と比べて普及しないのでしょうか。
そこには日本ならではの事情が関係しています。
①高温多湿な日本の気候
日本で無農薬栽培が難しいとされているのは、気候が第一の理由です。
温暖で雨が多く、夏は高温多湿になるため、無農薬栽培が難しいとされています。
とくに原因なのが雨と高温です。
雑草や虫などの活動が盛んになるため、農薬を使わなければ病気や虫によって作物がダメになってしまうのです。
逆に無農薬栽培や有機栽培が盛んに行われている欧州諸国は、降水量も少なく、気温も低めであると言われています。
日本は気候の面でもともと農薬を使わない農業において不利なのです。
日本の暑さや雨の多さでは無農薬で育てることは決して容易なことではありません。
②利益が出づらく農家にとって厳しい
平成28年の有機農業に関する調査データによれば、「有機農業以外を行う新規参入者に比べ、年間の売上げや所得が低水準の者の割合が多い傾向。」であったと報告されています。
つまりは、有機農業を営む農家として新規参入するのに厳しい現実があるということです。
農業で生計が成り立つようになるまで年数がかかる傾向があり、「労力がかかる」「生産量や収入が不安定である」といった理由から有機農業での作付け面積を減らす農家さんが多いようです。
また、消費者のニーズがまだそれほど高くないために、販路が確保できないと悩む農家さんも多くいらっしゃいます。
③残留農薬の規制緩和と経済政策
厳しい規制があれば農薬を削減する方向へと進んでいくはずですが、その逆の動きもみられています。
2013年には、日本で一部の農薬の残留農薬規制が緩和されました。
その農薬は日本でミツバチの大量死を引き起こしたクロチアニジンで、緩和前と後では2000倍になった野菜もあるほどです。
農薬の危険性が問題視されている中で、農薬の規制を厳しくできないのは国の政策も関係しているといわれています。
海外への農作物輸出量を増やすためには、作物をより効率よく生産しなければいけません。
無農薬や有機栽培といったコストがかかり、手間もかかる農業にシフトしきれないのは国の経済対策も関連しているのです。
④消費者の厳しい要求が無農薬栽培を苦しめる
無農薬野菜や有機栽培が発達しないのは、天候の問題や農家、国の事情だけが原因ではありません。
私たち買い手側が、農作物に対して厳すぎる要求をしていることも理由です。
形が悪い野菜は人気がなく売れずに、きれいで形の揃った完璧な野菜が好まれます。
いびつな野菜と形の良い野菜が売られていたら、ほとんどの日本人が後者の形がきれいな方を選ぶことでしょう。
潔癖すぎるほど形が整った野菜が日本人には好まれるため、スーパーや卸も整った形の野菜を買い上げるようになります。
そのため、日本ではリスクが高い無農薬よりも、収入が安定しやすい慣行栽培が主流となっています。
⑤エコロジーやサスティナブルに対する意識
農薬は人の体に有害なだけでなく、環境に対しても悪影響を及ぼします。
農薬は必要な虫や土中微生物を殺してしまい、過剰な肥料も食物連鎖のバランスを崩すことで土中微生物が済みにくい環境を作ってしまいます。
たとえば、スウェーデンを例にあげると、エコロジーに対する国民の意識に大きな違いがあることが分かります。
スウェーデンでは4歳から環境に関する教育が始まり、「環境に対して何が正しいか」ということを自分たちの頭で理解して行動することが当たり前になっています。例えば有機栽培のバナナを売ることがスーパー企業の付加価値となっているのです。
日本はどうでしょうか?
最近でこそビニール袋が有料化されましたが、まだ環境に優しい野菜作りに対する意識改革は進んでいません。
サスティナビリティやエコロジーに対する高い意識を持つ人が増えてくれば、日本の農業も大きく変えられるかもしれません。
無農薬野菜ならば絶対に安心?
では、無農薬野菜であれば、どんな野菜も同じ品質で同じように安全なのでしょうか。
残念ながら、先に申し上げたように日本には無農薬栽培についての法律や規制がありません。
そのため、農家さんが「うちは無農薬だ」と言えば、無農薬野菜ということです。
無農薬とはいっても栽培期間中だけ使っていない農家さんもいれば、栽培期間前の農薬使用にまで気を使っている農家さんなど、さまざまです。
どんな肥料を使っているのか、どんな栽培法で育てているのか、農家さんによって無農薬に対する考え方も異なります。
また、農薬を使ってなければ全て完璧というわけではなく、鮮度や美味しさも大事なポイントです。
農薬を使って育てられた新鮮な野菜と、無農薬でも少し時間が経った野菜では、農薬を使ってたとしても新鮮な野菜の方が良いですよね。
「無農薬」を単なるブランドのように捉えずに、総合的にみて本当に身体に良い野菜かどうかを見極めることが大切です。
本当に体にいい野菜とは何かを考えよう
日本で野菜を無農薬栽培で育てることは、想像している以上に厳しい現実があります。
体に悪いからという理由だけで、全ての農薬を切り捨てることは平易なことではありません。
ただ、少ないながらも「健康のため」「環境のため」にと、無農薬栽培や有機栽培で育てたいと頑張っている農家さんもいます。
なるべく農薬を使わない、地球にやさしい野菜がもっと当たり前の社会になるよう、私たち消費者が本当に体にいい野菜を選んでいくべきでしょう。
たしかに無農薬野菜はそれほど安価ではありません。
しかし、健康への投資、未来への投資と思えば、価値が高い選択ではないでしょうか?
長期的な目線で考えれば経済的にもメリットが大きいはずです。
例えば、野菜を少しずつ無農薬や有機野菜に切り替えてみてはいかがでしょうか?
ぜひ、小さなことから始めてみてくださいね。